抄読会―13
続いて、突進歩行についての烏賊博士の高説を伺った。 彼は脳幹から脊髄の絵を描き、こう言った。
「この領域には、内在的に歩速を決める領域があって、その歩速は速い。 それを上位の脳(大脳皮質系?)で抑制し、普通の歩速になる。」
つまり、歩速は普段は上位の脳でコントロールされてユックリとなるが、何らかの理由でそのコントロールが効かなくなると、脳幹(~脊髄?)の信号が優位になり速くなる・・と言うのである。
うーん、除脳ネコでの下肢のツッパリ実験に似ている。
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皆さんの考えは、どうだろう?
私の印象は、彼の説とは異なる。 そもそも突進歩行が起こる時は、前傾姿勢になり、転倒を防ごうとしても歩幅が小さくしか取れず、益々前傾姿勢になってしまう。 この悪循環の結果、突進してしまい、最終的には転倒してしまう。 この時、意識は姿勢の回復に集中し、やがてそれが無理と分かると、どうやったら怪我を最小限に抑える事が出来るかを、一瞬、頭の中を巡らせているのである。
私が疑問を持っている事を表情から読み取ったのか、烏賊博士はこんな質問をした。
「異常な歩き方の場合は、どうなの(=突進するの)?」
「異常な歩き方・・って?」
「例えば、後ろ歩きとか、横歩き・・とか」
「後ろ向きで歩くって、怖いんだぁ。 後方突進現象もあるしぃ・・ でも横歩きなら、出来るよ! やって見せるね!!!」
と言いつつ、私は椅子から降りて、床の上でのカニ歩きを往復して見せた。
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さて、問題は帰路である。 すると彼が車の所まで、エスコートしてくれる・・と言う。 そして、人気(ひとけ)のない所では、カニ歩きで進んだ。
こうして漸く車に辿り着け、無事に帰宅できた。 尚、車の運転には、支障ないのである。 不思議に思われるだろうが、彼によれば下肢の機能を、
- 体重を支える機能
- 足を動かす(前に出して進む)機能
に分けて考えるらしい。 例えば、直立姿勢の維持は①のみ、自動車の運転や自転車漕ぎは②のみ、歩行や自転車の立ち漕ぎは①と②である。 どの様な場合に障害が顕著となるかは、明白だろう。