抄読会―2(遺伝と突然変異)
しかし、C=GとA=Tは絶対的でなく、300~500塩基に1塩基位の頻度で変異が起こると言う。 これは、約30億対もあるヒトの全塩基数から推したら、莫大な数になる。 それでもなぜ、生命が維持されるのか? 彼によれば、これには少なくとも次の3つの理由があると言う。
① 人間のDNA対(約30億対)の98%がイントロンであり、エクソンは僅か2%。
(イントロン:蛋白質に翻訳されないDNA部分、エクソン:されるDNA部分)
② 一塩基が違っても同じアミノ酸をコードする例がある。 (コドンの冗長性)
(http://afro.s268.xrea.com/cgi-bin/log/png/bio_codon.gif)
③ 細胞の(=個体の)生存に必要な蛋白質をコード出来ないと、致死に至る。
それでも、生き残ると「ハプロタイプ」になり、「SNP」(Single Nucleotide Polymorphism)(=一塩基多型)を形成する事となる。
なぜ、これが重要かと言うと、親子の同定や遺伝的素因と疾病、特に難病に関係するからである。 その例は、上記の論文中にある。 勿論、PSPとの関連で、である。 (STX6、EIF2AK3、MOBP等)
では、PSPにおいては、これらの遺伝子変異がどの様に疾病に展開するのだろう? それを知るためには、τ(タウ)蛋白を知らねばならない。
―――――――――――――――――
神経軸索は、その形態を維持するために微小管(Microtubule)と言う直径25nm(ナノメータ)の構造物を有している。 また、この微小管は軸索での小器官移送の「レール」にもなっている。
そして、その形態の維持には、τ蛋白が欠かせない。と言うのは、τ蛋白はその一本鎖の途中に幾つかの微小管結合部位を有し、その安定化の役割りを果たしているからである。
http://www.oups.ac.jp/kenkyu/kenkyuushitu/image/01/k-03.gif
所がこのτ蛋白がリン酸化等の修飾を受けると、その荷電分布が変化する事により、その高次構造が変化するので、微小管に結合出来なくなり、微小管の構造が崩壊する。 と共に、修飾τ蛋白は凝集してオリゴマー(=NFT:Neurofibrillary Tangle)を形成する。
このNFTは細胞毒性を持ち、やがて神経細胞を破壊すると共に、細胞外に放出される。 そのNFTは、別の正常細胞に感染し・・ まるで、狂牛病のプリオンの様だ。
――――――――――――――――
では、τ蛋白と遺伝子との関係は?
それには、スプライシング(Splicing)を知らなければならない。 それは、DNAから翻訳されたRNA(pre-m-RNA)からイントロンに対応する部分を切り取り、エクソン同士を接続する過程である。
この過程で多様性が生まれるし、また異常蛋白の生じる事もある。 そう、PSPの病因は、τ蛋白質のスプライシング異常により生じた4-RT(4-Repeat Tauprotein)の蓄積による神経細胞の脱落なのだ。
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/Neurosci/isoform.JPG
アルツハイマー病やピック病も、このτ蛋白の異常が病因と考えられている。 それらを纏めて「tauopathy」と呼んでいる。 ではその異常がなぜリン酸化に繋がるのか、謎が多い。 なおτ蛋白1分子中には、リン酸化されるサイトが100以上あるらしい。