気功4―手かざし(施術)
そして「会員名簿」と言うタイトルのA4サイズの用紙に、住所・氏名・電話番号を書く様に言われた。 氏名のみは自署を求められたが、他は妻の代筆でOKだと言う。
ご存知だろうが、無資格者が「業として」(=対価を得て)医療行為を行う事は違法である。 それを避けるためには、例えば「気功研究会」と言う会員制の会を設立する。 そして自身が「代表(や監事)」になり、患者を「会員」とし、費用を「研究費」や「参加費」とする旨の会則を作成しておくのである。 勿論、会則には医療行為に関する記述(例:受診、治療、効果・・)があってはならないし、不特定の人(非会員)を診てはならない。
記入の内容を確認した気功師は、私に
「では早速、(施術を)やってみましょう。 こちらにうつ伏せなって下さい」
と言い、カーペットの上に敷いた、薄い布団を指差した。 枕にタオルを敷いてうつ伏せになった私の真横に、気功師が正座した。 そして、右手で水晶の振り子を回転させながら、左手を私の頭頂部にかさした。
「眠くなったら、寝てもイイんですよ」
と言いながら、気功師は左手の位置をゆっくりと頭部・両肩・背骨の上空と変えていった。
すると、手がかざされた部分がほんのりと、暖かくなってきた。 所謂、「手かざし」である。 それを私に確認すると、気功師は妻に説明した。
「今、悪い気を抜いて、良い気を入れているんです。 その証拠に、(鎖を持つ)私の右手の親指が(抜いた悪い気で)茶色くなってるでしょ?」
実は、私の位置からは見えなかったが、後日、妻に訊いたら指の変色は本当らしい。 勿論、施術前後では、親指の色は他の指と変わらず白かった。
続いて気功師は、私に仰向けになる様に言い、同様の手かさしを行った。 全部で1時間程である。
因みに、「手当て」の語源は、この「手かざし」と同じらしい。 患部に手を当てる事により、治癒を促進する事であろう。
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施術を一通り終えると、気功師は机に向き直って、
「上が137、下が85、脈拍が73・・」
と独り言に様に言いながら、メモをした。 どうやら、私の血圧と脈拍らしい。
但し、気功師は血圧計も秒針付きの時計も、持っていない。 それなのに、私の平生の数値にほぼ合致するのである。
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こうして一通りの施術が終わり、気功師が席を立った。
すると奥の方で、カチャカチャと食器の音がしてきた。 気功師が戻ると、白いカセロール風のカップにコーヒーを淹れてくれたのだった。 勧められるままに口に運ぶと、私には少し甘過ぎたが、暖かくて美味しかった。
そして、お茶受けを鋏で開封しながら、気功師は不思議なことを言った。