リハビリ287―壁を使って
続いてS士は、私に靴を履く様に指示した。 こうしてS士と私は、壁に張り付いた。
「ギリギリまで壁に近づいたら、バンザイをして、片方の手の平で壁をトントンと10回、叩いてみて下さい」
と言うので真似てみた。 続いて、逆の手でも行った。
まぁ、何と言う事も無い。 ・・と思えたのは最初だけであった。 左右の手で10回繰り返す内に、バンザイしている腕が重くなってきた。 ここで、このトレーニングの意味が分かって来た。
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続いて、壁に向かって一度バンザイしてから両腕を下げるのであるが、腕全体を壁から離さない様にするらしい。 丁度、水泳の平泳ぎに似ている。 S士は一連のトレーニングを、
「これは、背筋を鍛えるんです」
と教えてくれた。 つまり彼は、私の動的・静的姿勢を正そうと思っていたのである。
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こうして残り時間が5分になった頃、S士は
「今日は月初なので、これを書かなければならないんです」
と言いながら「リハビリテーション実施総合計画書」を示し、記入し始めた。 そして私の今月の目標を訊かれたので、「ハムストリングの柔軟性」と答えた。
そして前回未消化だった股関節の柔軟性について、尋ねた。
「Iさんから股関節の柔軟性のために、こんなのを習ったのですが・・」
と言いつつ、「卍」文字の半分のポーズを取りかけたら、S士は
「えぇ、それでもイイんですが、こんな風にやると効果的ですよ」
と遮る様に言いながら、台の端で片尻を落とした。 何か私には、「お互い(、理学療法士同士)の批判はしないが、自分の得意技(得意分野)を披露する」と言う、医療関係者の間の不文律を主張しただけにしか、思えなかった。
こうして、久々のS士によるリハビリが終了した。