診察201303―1
そうこうしていると、30分程で直接診察室に呼ばれた。 そこには、I医師のいつもの笑顔が待っていた。 I医師は、我々が着席するなり、開口一番
「お待たせして、申し訳ありません。 (他の患者から)今日は卒業式だから遅いの? ・・っていわれちゃって。」
と言った。 私は『卒業式』の意味が直ちにはわからなかったが、I医師にとって今日がその総合病院での最終診察日になる事だと悟った。
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私は、前回受診からの7週間の様子を、メモで報告した。 それを見るなり、I医師の表情が曇った。
? 転倒等、特筆するべき事件・事故はなかった。
少し間を置いて、元の笑顔に戻った。 つまり、転倒事故があったものと、誤解したのだろう。
更にその下に視線を馳せ、
「どうですか、しゃべり難いですか?」
と訊いた。 構音障害で、聞き返される事が増えた・・と報告したからだろう。
「ええ、母音から始まる言葉が、特に・・」
「では、『か』から始まる言葉を言って下さい。」
「格好、管理、関東・関西、会社・・」
と並べると、I医師はそれらを聴きながらキーボードから打ち込んで行った。 15程並べた所で終え、
「ヤッパ凄いわねぇ、難しい言葉が次々と出てきて・・ 私なんか、カニとかカサとかしか出ないわ。」
と、おだてられてしまった。 そして次は、診察に移った。