パーキンソン病/症候群の闘病記です。 同病の方々のご参考になれば幸いです。

idやURLのPSPとはパーキンソン症候群の中の進行性核上性麻痺、PAGFとはPSPの非典型例である純粋無動症の事です。

黒茶屋―3(終)


さて、着席して暫くすると、仲居さんが注文を聞きがてら、紹介をしてくれた。 建物は製糸工場だったものを改築したらしい。 だから黒い梁も太く、重厚な造りなのだ。 そして茶色く磨き上げられた床柱や床材は、それだけで長い年月の流れと連綿とした維持の努力とを教えてくれる。

 

そう、これこそが、店名「黒茶屋」の由来と言う・・ 合点である。

 

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やがて、飲み物の後に最初の料理が運ばれてきた。 先付の「勾玉(まがたま)豆腐」である。

 

なぜ、勾玉なのか? それは、

 

   「上に乗っているカシューナッツを、勾玉に見立ててあるんです」

 

と、仲居さんが教えてくれた。 添えてある木製のスプーンですくい、口に運ぶと、

 

   「(えっ? こ、これが・・ と、豆腐なの???)」

 

とばかりに、一堂、顔を見合わせた。 その様子から察したのか、

 

   「生クリームが入ってるんです。 それにニガリは、使ってなく・・」

 

と、教えてくれた。

 

この後、前菜・和え物・甘味・椀物・焼物・蒸物・揚物・酢物と続いて、漸く食事となる。 どの品も、舌はもちろん、目をも楽しませてくれる逸品である。

 

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例えば、前菜。 竹で編んだ籠に入っているのであるが、同じく笹を配した竹細工の蓋を開けると、さながら宝石箱の様である。 ガーネット色の川海老・エメラルド色の青梅(あおうめ)蜜煮・ルビー色のほおずきの中にはレッドトパーズ色の山桃・猫目石の様な蕗のとう(蕗味噌)・・ どれも食べてしまうのが惜しい。

 

もし時間を止められるなら、

 

   「いつ、止めるの?」

 

   「今でしょ!」

 

と、古いウケでも言いたくなる様な、珠玉の一日だった。