黒茶屋―3(終)
そう、これこそが、店名「黒茶屋」の由来と言う・・ 合点である。
――――――――――――――――――――――
やがて、飲み物の後に最初の料理が運ばれてきた。 先付の「勾玉(まがたま)豆腐」である。
なぜ、勾玉なのか? それは、
「上に乗っているカシューナッツを、勾玉に見立ててあるんです」
と、仲居さんが教えてくれた。 添えてある木製のスプーンですくい、口に運ぶと、
「(えっ? こ、これが・・ と、豆腐なの???)」
とばかりに、一堂、顔を見合わせた。 その様子から察したのか、
「生クリームが入ってるんです。 それにニガリは、使ってなく・・」
と、教えてくれた。
この後、前菜・和え物・甘味・椀物・焼物・蒸物・揚物・酢物と続いて、漸く食事となる。 どの品も、舌はもちろん、目をも楽しませてくれる逸品である。
http://img6a.smcb.dena.ne.jp/cvt/photo/1/732/d63h8ka52hoc6j9ka5i9ka5ipc63100.jpg/500x500-49152.jpg
例えば、前菜。 竹で編んだ籠に入っているのであるが、同じく笹を配した竹細工の蓋を開けると、さながら宝石箱の様である。 ガーネット色の川海老・エメラルド色の青梅(あおうめ)蜜煮・ルビー色のほおずきの中にはレッドトパーズ色の山桃・猫目石の様な蕗のとう(蕗味噌)・・ どれも食べてしまうのが惜しい。
もし時間を止められるなら、
「いつ、止めるの?」
「今でしょ!」
と、古いウケでも言いたくなる様な、珠玉の一日だった。