パーキンソン病/症候群の闘病記です。 同病の方々のご参考になれば幸いです。

idやURLのPSPとはパーキンソン症候群の中の進行性核上性麻痺、PAGFとはPSPの非典型例である純粋無動症の事です。

黒茶屋―2

 

店の傍らを過ぎるとせせらぎの音が強くなり、その音に誘われる様に小径を下ると、急に眼前が開け、晩夏の陽光に踊るせせらぎが見えて来た。 秋川渓谷である。

 

行く夏を惜しむ様に水と戯れる子供の声が微かに聞こえてくる気がするが、空耳とは思えない。

 

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しかし、清流と共にゆっくり流れる時間を慈しんでいる余裕は無い。 もう予約時刻が迫っている・・ そこで緩やかな石段を上がり、入口の暖簾をくぐった。

 

一瞬、昭和初期にタイムスリップした感じがした。 もちろん昭和の初期は私が生まれる前なので、本来、知る由も術(すべ)もない。 それなのに、どこか懐かしさを感じるのは、デジャヴー(既視感)のためだろうか?

 

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入口で靴からスリッパに履き替え、番頭さん風の若い男性の案内に従って廊下を進んだ。 廊下の片側は客席の個室であるが、その反対側には器具や道具が展示されていて、ここが何かの工場であった事を示唆していた。

 

部屋の前に着き、案内の男性が片膝を付いて、

 

   「こちらでございます」

 

と引き戸を開けると、思わずその眩しさに、幻惑すら感じた。 角部屋の2面が総ガラス張りになっていて、陽光に照らされた楓や渓谷上流の反射の光で部屋が満ち溢れているのだ。 仄暗い廊下とは、対照的だ。

 

もう1面からは、入口にあった水車が眼下に見え、部屋の脇からその動力源である水が樋を伝っている。 ガラス戸を開けてバルコニーに出れば、手が水に届きそうである。

  

部屋の中央にはテーブルがあり、既に6脚の椅子が並んでいた。 「テーブル」と言っても、その存在感に圧倒されてしまう程の、重厚な造りである。

 

 

ん? 待てよ?? 眼下に水車??? 廊下を進んだが、階段は登っていない・・ じゃぁここは、一階なのだろうか、二階なのだろうか?