診察201209―5
待合室で予約票や処方箋ができるのを待っていると、隣に見覚えのある車椅子の男性がいる事に気付いた。 年の頃は50前だろうか、体格のシッカリした印象である。 奥様に付き添われていた。
見覚え・・
そう、今回の脳神経内科受診の直前、リハビリ室で私と同じ時間帯にリハビリを受けていた患者だった。 印象に残っているのは、その重症度だ。 両腕で体を支えて両足で車椅子から立ち上がる練習をしていたのだが、支えられてやっと立ち上がったのである。 しかし10秒と持たず、
「疲れました」
と言って、車椅子にへたり込んでしまったのを覚えている。
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予約の順が、私の直後だったらしい。 看護師が
「○○さーん、中へどうぞ」
と、受診を促した。 すると奥様は車椅子の左右の足置きを水平に戻し、ご主人の脹脛を持って、足を載せた。 つまり、患者は自力で足を上げる事ができないのである。
車椅子の形も、院内で良く見掛けるのとは違う。 見ると名前が書いてあった。 つまり、個人のものなのだ。 通常見掛けるのは病院に備えてある「外来用」であり、私も骨折時にお世話になった。
その余りの重症度に、少なからずショックを受けた。 でも、パーキンソン病ではなさそうだ。 だったら何の病気なのだろう・・ 重症筋無力症? いや、ここは脳神経内科である。 だったら、筋萎縮性側索硬化症だろうか? 好発年齢と言い、性別と言い・・
そう言えば、I医師の専門は後者である。
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病が何であるにせよ、予後の良い事を祈るばかりである。
その夫婦の事が脳裡から離れず、重い気持ちのまま会計を済ませ、近隣の薬局で院外処方を受けて帰宅した。