診察201205-4
「私が見ていると、チャンと歩けるのよねぇ・・」
と呟いた。 妻は、
「そうなんです・・ 家では、ドタッと倒れ込む様に歩いているんですけど」
と説明したが、I医師にはそれが分かっていた様だ。 それは、私が診察室へ入る様子が、病的な歩行だったらしい。 狭い所(扉)を通るのが苦手だからだ。
(ん? 私が診察室に入った時、I医師は机に向かって、何かを書いていたぞ・・)
と思った。 確かに私は、I医師の横顔を見ている。 つまり、I医師は私の普段通りの歩き方を観察するため、私が意識しない様、わざと別の作業に没頭していた(ふりをした)のであろうか? ・・私の想像であるが。
だとしたら、芸が細かい。 そして、こんな冗談を言った。
「今度、私の声を録音しときましょうか?」
と言いながら、マイクを持つ真似をした。 これは、妻が常々、
「先生の前では、普通に歩けちゃうんです」
と言っている事に、呼応したのであろう。 自分でも不思議なのだが、何かのキッカケがあると、普通に歩けるのだ。 I医師には、それ(=強く意識を持てば、普通に歩ける事)を普段しない事が、私の怠慢に映るらしい。 でも、それができないからこそ、「病気」なのである。
私も、
「歩くのは苦手なんですけど、小走りなんかは出来ちゃうんです」
と、腕を振って走る真似をした。
そしてI医師は、私の病気をこんな風に評した。