「悪くなっている?」
妻は心配そうに、T医師に、
「(主人の病気は)悪くなっているのでしょうか?」 (妻)
と、病の進行度を尋ねた。 こんな時、医師はどう説明するのだろう・・と、興味を持った。 すると、T医師はチョット考えて、こんな風に説明したのである。
「悪いと言っても、癌の様に何か悪いものが大きくなるのではないんです。 丁度井戸が枯れる様に・・ そして、枯れるのが(正常人より)少し早いんです」 (T医師)
と。 やたらと不安を煽らない、上手な比喩を用いた説明である。
後は妻が気になる症状として、
「(主人が書く)字が小さいんです。 読めない位・・」 (妻)
と伝えたら、T医師はカルテにその旨を記入していた。
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T医師は私が提出した症状の変化を書いたメモについて、
「これ(=メモ)は、戴いても宜しいんですか?」 (T医師)
と尋ねた。 元々そのためのものなので、私は
「勿論です」 (私)
と答えた。 カルテを見ると、過去のメモが時系列順に貼ってあった。 T医師は、
「これなら、誰が見ても分かりますからね!」 (T医師)
と。 妻は、
「(主人の)この几帳面さが、病気の原因なんでしょうか? 私の様にチャランポランなら、病気にはならなかったんでしょうか?」 (妻)
と、T医師に冗談をかませた。 T医師は苦笑しながら、それは否定し、
「それなら私も、奥さんタイプですよ」 (T医師)
と、ニコニコしながらフォローしてくれた。 つくづく謙虚な医師である。